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R06北いわて地域活性化推進研究 「他出子と関係人口のネットワーク化による集落支援モデル(ふるさと納 Day)の開発と運用に関する研究―岩手町豊岡地区をモデルとして―」

R06北いわて地域活性化推進研究 

「他出子と関係人口のネットワーク化による集落支援モデル(ふるさと納 Day)の開発と運用に関する研究―岩手町豊岡地区をモデルとして―」PDF

研究代表者: 総合政策学部 役重眞喜子
共同研究者: 岩手町長 佐々木光司

<要旨>
 本研究は、北いわて地域の諸集落が著しい過疎化と高齢化に直面する中で、住民と他出家族、関係人口の協働によって集落機能を支えるしくみを持続的な形で構築するため、岩手町豊岡地区をモデルとして、専用WEBサイトや学生との協働プロジェクトを活用した住民ニーズと支援シーズの把握・マッチングを行った。その結果、他出家族を含む支援ネットワークを形成するとともに、ニーズの可視化とマッチングの手法とポイントを明らかにした。

1 研究の概要(背景・目的等)

 岩手町豊岡地区は、戦後、樺太から帰国した人々が山野を 開拓した集落であり、高齢化の進む北いわてエリアの中でも 最も高齢化の著しい集落の一つである(令和54月人口50人、高齢化率64.0%)。開拓の苦労の歴史から地域や家族 の絆が深く、自立精神も旺盛であるが年々高齢化が進み、集落の行事や日常の生活維持にも支障を来たしつつある。2020年より本学役重研究室と連携し、基礎的な調査や学生との交流事業を継続している(表1)。

年度 実施内容
2020 岩手県活力ある小集落実現プロジェクトによる基礎調査(住民ヒアリング、他出家族アンケート等)
2021 法律・行政実習でのフィールド活動開始
植樹会、砂洗いなどの集落支援
2022 集落の記憶を記録する聞き書き活動開始
紙芝居化と読み聞かせ活動
2023 聞き書きをもとに絵本製作・刊行
豊岡ファンWEBサイトの試行版開発(富澤研究室)

2 研究の内容(方法・経過等)

  荒(2022)によるネイバーフッドデザインの枠組み(図1) をふまえ、以下の方法により進めた。
 ①主体のデザイン住民ワークショップ等を通じた住民、学生の主体的な参画行動の喚起
 ②機会・場・学びのデザイン学生協働プロジェクトによる学びや交流 
 を通した関係人口ネットワークの形成 
 ③仕組みのデザイン以上をふまえ「ふるさと納Day」モデルの開発に向けたニーズとシーズのマッチングの検証


y画像1.png図1 ネイバーフッドデザインの構築 プロセス 出典:役重(2023)

3 研究の成果

 本研究においては、地域情報発信ツールを活用した住民ニーズと支援シーズの把握・マッチングを行い、他出家族や関 係人口が故郷に貢献した時間をふるさと納税のように可視化・評価して支援者へのインセンティブを高める(仮称)「ふるさと納Day」モデル(図2)を段階的に構築・運用し、最終的には地域に実装することを目標としている。本年度においては、地域、他出家族、関係人口の相互の信頼関係の基盤となるネットワーク形成及びその環境整備、地域の生活ニーズと応援者の支援シーズのマッチングの検証(図2の囲い枠部分)を実施した。以下、順に記述する。

y画像2-2.png図2 ふるさと納Dayモデル

(1)住民ワークショップ等を通じた主体性の喚起
  地域の資源を再発見するツールとして「豊岡AtoB」の制作を学生が企画し、 2回の住民WSを通じて26(AからZ)の地域資源を抽出したことにより、豊岡の歴史や魅力の再認識と、集落持続への意欲再生につなげることができた。

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写真1 豊岡AtoZ              写真2 AtoZワークショップの様子

2)学生との協働を通した関係人口ネットワークの形成
 地区例大祭で開拓時代を再現したミニツァーの実施、Wi-fi 環境の整備とこれを活用したスマホ教室の開催等、関係人口を含むネットワーク形成を進めた。併せて参加学生、他出 家族、住民等へのアンケート調査(20249月)を行い、 ネットワークへ継続への高い参加志向(関係人口側)及び期待感(住民側)を確認することができた(図3、表2)。

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写真3 開拓ミニツァーの様子          写真4 スマホ教室の様子

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図3 関係人口ネットワークへの参加意向

表2 交流とネットワーク継続に関する住民意見(抜粋)

小さな集落ではあるが、学生方との世代間交流は住民にとって、とても励みになっている。
当地区の様子が発信される事により町内にも伝われば地域の活性化になるのではないかと思っているところです。
できれば短年度の計画だけではなく、中長期の計画を考えて欲しい。
学生さん達と豊岡の人と、もっと積極的に話しかける姿があればよかったと思いました。
学生さん達の若い気を感じるとても楽しい時間です。
学生さんの中で一人でも豊岡に移住するという方が出て下されば希望の光の一燈になるかもしれません。期待します。

(3)生活ニーズと支援シーズのマッチング
 一方、ネットワークの持続のためにはモチベーションの担保などの課題があり、学生等からは望ましい支援のあり方として分かりやすい情報発信や気軽に参加できるイベントなどが挙げられた(図4)。

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図4 かかわり継続のために望ましい支援 

 また、整備したWi-fi 環境を活用して関係人口を交えたオンライン交流会を行い、住民の生活ニーズと支援シーズのマッチングを試行した結果、冬場の除雪など交流を兼ねたイベント感覚の支援のマッチング度が高かった(図5
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写真5 オンライン交流会の様子

y画像10.png図5 生活ニーズと支援シーズのマッチング状況

4)先行事例の調査と整理
 以上のほか、鳥取県日野町、島根県雲南市、同奥出雲町等、過疎化と高齢化がさらに厳しい中山間地域において先進事例調査を行い、鳥取大学の学生サークルと連携した集落支援の成果、地域運営組織(農村RMO)や福祉事業者との協働による高齢者の見守り支援の実態などについて北いわて地域に適用可能な知見を整理した。

4 今後の具体的な展開

 これらをふまえ、岩手町の若者支援に係わるNPO法人SETや社会福祉協議会等の関係者との話し合いを持ち、今後より持続的な形でネットワークを保つアイデアについてブレーンストーミングを行った。その結果、次年度以降は専用WEB サイトの運用、集落紹介冊(AtoZ)の活用とともに、マッチング度の高かった冬場の除雪支援、町に開設された民泊や子ども食堂等、新たな動きと連携した交流機会の創出を柱に、引き続きふるさと納 Dayモデル構築に向けて取り組んでいくこととした。さらに、豊岡地区のように大学が近隣に立地せず、学生との連携が比較的困難な地域におけるモデルの検討にも着手し、多様な地域性に対応できるモデル開発を志向していきたい。

5 その他(参考文献・謝辞等)

 調査にご協力いただいた豊岡地区と岩手町の関係者皆様、 視察先でお世話になった皆様に厚く感謝申し上げます。

<主な参考文献>
荒昌史(2022)『ネイバーフッドデザインまちを楽しみ、助け合う 「暮らしのコミュニティ」のつくりかた』英治出版。
役重眞喜子(2023)「制度づくり・組織づくりから『場づくり』へ : 令和のコミュニティ政策を考える」『コミュニティ政策』21,62-87