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R04北いわて・三陸地域活性化推進研究 「北いわての中小製造業企業におけるデザイン経営の実証研究 ―㈱東光舎を実証事例とした参与観察型アプローチに基づく社会実装による検証」

R04北いわて・三陸地域活性化推進研究 

「北いわての中小製造業企業におけるデザイン経営の実証研究
―㈱東光舎を実証事例とした参与観察型アプローチに基づく社会実装による検証PDF

研究代表者:総合政策学部・近藤信一  研究分担者:総合政策学部・三好純矢

共同研究者 :(井上研司、佐藤昭)(株式会社東光舎)

<要旨>

 本研究は、県内中小製造業企業におけるデザイン経営モデルの構築を目的とした研究の一環として実施しており、今年度は、実証協力企業の㈱東光舎と感性によるマッチング実施によって選出された外部デザイン人材との製品開発を行った。実証では、新製品の工業デザイン、いわゆる狭義のデザインにとどまらず、㈱東光舎の経営理念やビジョン、これまでの歴史や社風、製品シリーズのコンセプトなどを製品のデザインに含める広義のデザインを実証の領域とした。

図表 仮説「岩手版(地方版)デザイン経営モデル」

1 研究の概要(背景・目的等)

 経済産業省と特許庁が、平成29年度に「産業競争力とデザインを考える研究会」を設置し、平成30523日に報告書『「デザイン経営」宣言』を公表した。その中で、企業経営においてデザインを重要な経営資源として活用し、ブランド力とイノベーション力を高めることにより、企業の産業競争力が向上することが提言された。しかし、県内中小企業においてデザインをどのように活用しているかが明らかでなかったことから、現状を明らかにし、デザインを活用した商品開発を推進し、競争力を高めていくことを目指して、研究活動を実施した。

2 研究の内容(方法・経過等)

 令和元年度(2019年度)の地域協働研究(ステージⅠ)では、デザイン経営を推進している先端企業とデザイン経営を進めていきたい県内中小企業(本社が県内・県外を問わず、岩手県内に事業所を有する製造業の中小企業であり、かつエンジニアリングチェーン(自社開発商品)及びサプライチェーン(量産工程)を有している企業)に対してインタビュー調査による実態調査を行い、県内企業、特に中小企業への適応を目的として「岩手版(地方版)デザイン経営モデル」の構築を、実験的に観察的な実証研究として行った。

 令和2年度(2020年度)の地域協働研究(ステージⅠ)においては、①外部デザイン人材と中小製造業企業のマッチングのフレームワークを精緻化し、マッチングの基盤となる②デザイン人材データベースの構築を行った。

 令和3年度(2021年度)の北いわて・三陸地域活性化研究においては、構築したデータベースに基づき、㈱東光舎においてデザイン業務を実践する外部デザイン人材のマッチングを実施した。その後、同社の製品開発担当者と外部デザイン人材が、オープンイノベーションにより製品開発に着手することでマッチング効果の検証や、デザインの経営資源化について参与観察型アプローチに基づく社会実装によりモデルの検証を実施した。

 令和4年度(2022年度)の北いわて・三陸地域活性化研究(本報告書の研究)においては、実証協力企業の㈱東光舎と感性によるマッチング実施によって選出された外部デザイン人材との製品開発を行った。本実証では、新製品の工業デザイン、いわゆる狭義のデザインにとどまらず、㈱東光舎の経営理念やビジョン、これまでの歴史や社風、製品シリーズのコンセプトなどを製品のデザインに含める広義のデザインを実証の領域とした。そのため、㈱東光舎の経営者、開発部門、製造部門など全部門の従業員とデザインに活かすためのコンセプトを明確にするためのWSを実施した。また、数量とコストを加味した現実的に量産可能なデザインにするため、外部デザイン人材による同社の製造現場の視察を実施した。そのうえで、外部デザイン人材によるデザインの提案と同社への提案、同社からの意見とデザイン修正を繰り返し行い、試作品を作成した。試作品による打ち合わせで、デザインと仕様を固め、量産化に向けた試作品(1号)を二種類作成した。一つ目のデザインは、力強さを表現したデザインで男性美容師向けに(A型)、もう一つのデザインは、繊細さを表現したデザインで女性美容師を向けに(B型)、デザインされた。この二つの試作品を持って、盛岡市内の美容室(男女の美容師)に協力していただき、数週間にわたるモニター調査を実施した。その上で、開発部門と営業部門との試作品及びモニター調査結果を基に打ち合わせを実施している。

3 研究の成果

 研究活動としては、先行的な実証研究が無いため、①外部デザイン人材とのマッチングの実証、②外部デザイン人材によるデザイン活用(デザイン経営)の実証、について、実証協力企業である㈱東光舎の全面的な協力を得て、実験的な形での実証研究を行っており、①マッチングの実証、②デザイン活用(デザイン経営)の実証、について、単なる観察にとどまらず、実証時に意見交換をしながらの参与観察的に参加し、研究上必要なデータを収集している。令和4年度(2022年度)の北いわて・三陸地域活性化研究においては、①マッチングの実証については、選出する側の㈱東光舎、選出された側の外部デザイン人材、両者の仲介役(コーディネーター)の岩手県工業技術センター産業デザイン部、の3者へのインタビュー調査で、成果を得られており、モデルの実証は概ね成功したといえる。②デザイン活用(デザイン経営)の実証については、同社の経営理念や社風、製品シリーズのコンセプトなどを盛り込み、かつ同社の製造部門の技術的かつ量産能力を加味した現実的な製品デザインの試作品が出来たこと、試作品の美容師によるモニター調査でもデザインの意図通りの感触を得たこと、さらに同社の販売部門の営業部門でも付加価値のあるデザインとして従来のシリーズよりも高価格帯のシリーズ(販売単価のアップと高級グレードとしてのシリーズ化)として売り出したいとの感触を得られたこと、などから概ね実証が上手くいっているといえる。ただし、上市と拡販の前に営業部門(東京)でも複数の美容室でのモニター調査を実施したいこと、同社が拡販ツールとして活用している国内外の美理容関係の展示会がコロナ禍の影響により延期またはオンライン開催となったこと、同社の製造部門が既存製品シリーズの受注残で新製品の量産を行う生産キャパが不足していること、などから実証研究の実施が滞っている。

4 今後の具体的な展開

 今後の研究活動については、実証協力企業の㈱東光舎での②デザイン活用(デザイン経営)の実証を進め、令和5年度上期では、⑴コロナ禍が収まりつつあることから東京でのモニター調査の実施、⑵上市と展示会などでの拡販の実施、⑶受注状況と量産の調整、などを参与観察的に実証する。そのうえで令和5年下期では、同社の経営者、開発部門、営業部門(東京)、外部デザイン人材(静岡)に対して、インタビュー調査を実施し、実証プロセス及び成果についてデータ収集を行う。また、研究テーマとなっている県内中小製造業企業のデザイン経営は、同様に平成31年度から取り掛かっている地域協働研究ステージⅠ(平成31年度~令和2年度は近藤信一が研究代表)、同ステージⅡ(令和3年度~令和4年度は三好純矢が研究代表)においても研究を遂行している。地域協働研究は県南~県央の企業を中心にデザイン活用の実証研究を対象とし、岩手県工業技術センター産業デザイン部において外部デザイン人材DBの構築、マッチング実証の実施、マッチングの同産業デザイン部の支援メニュー化、県内中小企業を対象としたデザイン経営のセミナーを開催することで、県内企業に対してデザイン経営の啓蒙活動を実施すること、を目的として実施している。さらに、全学競争研究費(令和46年度)では、これまでの実証研究が事例研究にとどまっていたことから、事例を増やして、複数事例によるマルチ分析または比較をするために、盛岡市内に立地している㈱アイカムス・ラボ及び㈱IDEALとの新たな実験的な実証研究に取り組んでいる。本研究では、これまでの研究活動で行ってきた実験的な実証研究である㈱東光舎の事例と㈱アイカムス・ラボと㈱IEADLの事例に基づき、比較分析も行う。

図表 研究活動の全体概要と本研究の位置づけ

5 その他(主な研究成果)

 本研究申請を含む県内中小製造業企業のデザイン経営の研究成果を列挙する。下記に列挙しているように、本研究テーマでは全国大会レベルでの学会報告を行っており、ほかにも査読付き論文作成などで多くの研究成果を挙げている。

・学会報告等

近藤信一・三好純矢「地方中小企業におけるデザイン経営に関するモデル構築―岩手県内中小企業における実態調査からの考察―」(2020年度産業学会第58回全国大会・自由論題報告、オンライン報告)

三好純矢・近藤信一「デザイン経営における感性のマッチング-岩手県内中小企業における実験的取組みに基づく実証研究からの考察-」(2020年度産業学会イノベーション研究部会、日時:202095日 1300分~1730分、場所:大阪産業大学curio-city

三好純矢・近藤信一「地方中小ものづくり企業におけるデザイン経営の理論構築に向けた研究(経過報告)」(産業学会第59回全国研究会での自由論題報告、日時:2021612日、場所:オンライン開催)

三好純矢・近藤信一「中小ものづくり企業における地方版デザイン経営モデルの実証研究―デザイン人材のマッチングとコンセプトの決定―」(産業学会西部部会、日時:2021124日、場所:九州大学)

三好純矢・近藤信一「ものづくり中小企業における地方版デザイン経営モデルの比較研究―デザイン人材のマッチングからデザインを活用した製品開発へ―」(産業学会第61回全国研究会での自由論題報告、日時:2023617日、場所:西南学院大学)