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R03北いわて・三陸地域活性化推進研究 「北いわて・三陸地域の依存症支援ネットワークの調査及び自助グループ活性化策の検討」

R03北いわて・三陸地域活性化推進研究 

「北いわて・三陸地域の依存症支援ネットワークの調査及び自助グループ活性化策の検討PDF

研究代表者: 社会福祉学部 泉啓

共同研究者: 竹中保夫・斎藤昭彦・加藤暁子・北村昇二

<要旨>

 アルコール依存症自助グループである断酒会は、依存症者の回復にとって重要な地域資源である。しかし岩手県では特に沿岸部と県北地域において会員の減少及び高齢化が顕著である。本研究では、現役断酒会員、断酒会未入会の元患者、地域の医療福祉関係者らにインタビュー調査を実施し、その結果をもとに関係者とともに自助グループの活性化の方策を検討した。調査を通して、就労者にとっての例会参加の日程的な難しさの声が多数聞かれた。また成功事例の検討から、安定的なグループ運営の条件として、地域の病院関係者による定期的な例会訪問、そして患者へのグループ参加の動機づけが重要な鍵を握っていることを確認した。

1 研究の概要(背景・目的等)

 アルコール依存症自助グループである断酒会は、依存症者の回復にとって重要な地域資源であるが、地方においては会員減少が著しい。岩手県では特に沿岸部と県北地域において会員の減少及び高齢化が顕著である。県北二戸地域、沿岸部ともに市民の飲酒量の多い地域であり、本来潜在的な依存症者も多いと目されるが、このままでは依存症者がつながる受け皿が枯渇する恐れがある。当地の自助グループが次々閉会となっているという課題を解決すべく、現役断酒会員、地元に断酒会がありながら断酒会に入会していない元患者、そして地域の医療福祉関係者にインタビュー調査を実施する。またその結果をもとに関係者とともに自助グループの維持、活性化の方策を検討する。

2 研究の内容(方法・経過等)

 本研究では、以下の二種類の活動を行った。まず調査を実施し、その調査結果を現場にフィードバックすることを目標とした。

(1)県北二戸地域と沿岸部地域で依存症問題に取り組んできた当事者及び支援者にインタビュー調査を実施し、過去の取り組みと現在の状況について聞き取りを行った。

(2)調査結果を元に、各地の断酒会員や支援者とともに自助グループ改善のアイデアを出し合い、各グループの活性化策の検討を行った。

3 研究の成果

 各地の断酒会員からの聴き取りで明らかとなったのは、自助グループの持続における支援者側の協力の重要性である。

 18名のメンバーを擁し、県内で最も会員の多いリアス断酒新生会(宮古市)は、同地の二つの精神科病院との良好な関係を築いている。病院関係者が入院患者に断酒会を紹介する他、時折例会に顔を出すといった関係性も存在し、当地における断酒会の存在感上昇に寄与している。

 これに対し、県北二戸地域は会員数が下降している。1983年から98年にかけて、同地では行政職員と当地の精神科病院を中心に、アルコール問題に関する連絡会議が定例的に開催されていた。このネットワークを介して、例会につながる当事者も多く存在し、一戸は県内で最も活発な例会場であった。ただし、連絡会議の終了及び会議の中心人物の引退とともに、その媒介機能も弱まったといえる。

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図1. 岩手県断酒連合会の例会場
(印の大きさは平均参加者数の多さを示す) 

 断酒会未入会の元患者のインタビューから、地元断酒会への参加ニーズは聞かれる。隣県(秋田、宮城)の実態調査からも、地方都市では支援者が積極的に協力する格好で、自助グループが維持されることが確認されていたが(泉 2015)、今回の調査でも依存症自助グループの火を絶やさないための、一層の協力の必要性が示されたといえる。

 なお、今回は一部のインタビュー(オンライン)に、学生有志に参加してもらった。現場への刺激、学生への教育効果双方の面で、有意義なものとなったと思われる。

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写真1. 学生と共に行ったインタビュー時の様子

4 今後の具体的な展開

 この結果については各地のキーパーソンと既に共有済みだが、今後は定期的な会合を続けることとしたい。なお今回の調査では岩手県断酒連合会の歴史についても伺い、冊子を編纂し配布することを当初計画していたが、叶わなかった。これに関し聴き取りを進め、今後実現することとしたい。

5 その他(参考文献・謝辞等)

・泉啓 2015「薬物依存症者を支える人的ネットワーク―仙台市における様々な依存症『当事者』たち」『更生保護』66巻12号, p.12-17.

謝辞:今回インタビューに応じてくださった皆様に心より感謝申し上げます。