重要なお知らせ

R07北いわて地域活性化推進研究

2025年度_北いわて地域活性化推進研究_研究成果報告書_役重先生.pdf (335.72 KB)

研究代表者

総合政策学部:役重 眞喜子

共同研究者

  • 岩手町長 佐々木光司(担当者:みらい創造課政策推進係主任 中村行佑) 

要旨

本研究では、昨年度に引き続き岩手町豊岡地区でのモデル研究により大学と連携した集落支援のしくみづくりに取り組み、その効果を検証した。その結果、関係人口としての学生の存在がモチーフとなって他出子と集落をつなぎ直す可能性と、地元高校生を含む新たな連携深化のプロセスを提示した。加えて、西和賀町において移住者を中心とした若手ネットワークへのニーズ調査を行い、遠隔地における大学連携のモデル構築に向けた条件抽出を行った。

1 研究の概要(背景・目的等)

北いわて地域をはじめ、人口減少と高齢化に直面する小規模集落においては、他出した子世代をはじめとする地区外の関係人口により集落機能の維持が図られているケースも多い。しかし、具体的にどのような要素がこれらのネットワークの持続性を担保するのかは必ずしも明らかではない。そこで、本研究は、昨年度に実施した岩手町豊岡地区における域学連携を軸とする集落支援モデルの研究成果をふまえ、住民ニーズと支援シーズのマッチングのしくみを多様な地域人材が担える体制の構築を図るとともに、新たに西和賀町を事例に、大学のない町における大学・地域連携モデルの条件を明らかにする。

2 研究の内容(方法・経過等)

(1)岩手町豊岡地区
  戦後、樺太から帰国した人々が山野を開拓した豊岡地区は、人口約50名(R5)、独居高齢者が多く高齢化率64%にも達し、北いわてエリアの中でも最も高齢化の著しい集落の一つである(図1)。2020年から本学学生の調査や交流を継続的に受け入れており、本研究の事例地として適切である。
 
図1 岩手町豊岡地区の位置と県大生との交流の様子

本研究の全体プロセスを表1に示す。フェーズ1では関係構築を行い、フェーズ2となる今年度は町の事業(若者支援、フューチャーセンター[1]の等)との連携を進め、集落を越えて学生がハブとなり多様な人材にアプローチすることを目指した。
[1] 町の起業・創業の拠点、また交流拠点として2024年に整備。 その後エントランス棟を2026年に開設。

表1

  実証内容
R6年度フェーズ1 関係者、他出家族等の関係構築、豊岡地区WEBサイトの活用環境の整備とモデル運用
R7年度フェーズ2 町事業、制度との連携集落外とのつながりの創出
R8年度~フェーズ3 地域の自律的な運用体制の構築成果の測定と改善

(2)西和賀町小繋沢集落

 小繋沢集落は豪雪で知られる西和賀町の中山間地域に位置する農業集落(約40戸)である。平成19年度に中間支援NPOの支援を受けて地域づくりに力を入れてきたが、近年は高齢化と担い手不足が徐々に進行し、モデル的な事業であった大根栽培も休止するなど課題に直面している(図2)。

一方、西和賀町には近年、Uターンしてネイチャーガイドや民家カフェを開業する若者、議会に参画するIターン者など、地元の魅力を引き出しながら活動する若手が増えていることから、豊岡地区で試行してきた関係人口モデルの共有が可能と考えた。

       ※高画質版はPDFをご覧ください

図2 西和賀町小繋沢集落の位置と県大生との交流の様子

3 研究の成果

(1)岩手町豊岡地区
  目標としたのは(1)岩手町で活動する高校生など、大学生が仲立ちとなる新たな主体の係わり創出、(2)集落を超えて町全体が小集落の持続性を支えるネットワーク形成のきっかけ創出である。いずれもつながりのハブは学生主体であり、様々なアクターへの働きかけを表2のプロセスで進めた。

表2 豊岡地区における新たな主体の係わりプロセス

時期 場面 内容(働きかけ)
2025.5 実習視察 学生→NPO(中高生の実態聴取)
2025.7 植樹会 学生→誘致企業(イベント協力依頼)
2025.9 例大祭 学生→住民(イベント内容プレゼン)
2026.2 雪かき交流 学生→高校生(役割を持たせる)
2026.2 ピッチ大会 学生→町民(集落連携の必要を提言)

 これらの結果として、

(1)高校生:自発的な活動として初めて豊岡地区の雪かき交流プロジェクトに6名が参加(図3)

(2)誘致企業:交流会用の自社製品をご厚意で提供

(3)他の集落関係者:学生の発表を聞き豊岡の活動に関心

 以上のような新たな主体の係わり形成、従来のつながりの維持深化を図ることができた。

※高画質版はPDFをご覧ください

図3 高校生を交えた雪かき交流プロジェクトの様子と新聞記事 (日本農業新聞 2026.3.20)

さらに、住民へのインタビューを行った(表3)。
表3 住民インタビュー結果(9月7日例大祭にて)

語り手          内 容
60代 女性 あの人、前はあんまり笑わない人だったのに学生さんたちをすごく可愛がって話してるの見てさ、ああこんないい笑顔する人だったんだってびっくりしたのよ。
80代 女性 あの父さんもさ、前は俺らの代で豊岡は終わりだなんて言ってたのにさ、若い人が来てくれるようになって最近言わなくなったよね。
70代 男性 (区長) 他出家族の方にね、声かけるのに「今度も学生さんたち来るから来てちょうだい」って言うんだよ。なら、まあ行くかなって、なるからね。

この結果からは、学生の継続的な係わりが住民の心の張りに少なからず良い影響をもたらしていることが推察できる。また、図3に示した新聞記事では、住民(90代男性)が「学生さんたちが来ることで地元住民や他出子も積極的に関わろうとしている」とし、自分も1年でも長生きしてここで暮らしていきたいと語っている。集落と他出子のつながりを学生らの関わりが“撚り直して”いることが確認できる。

2)西和賀町小繋沢集落

 前述のように、近年町に形成されつつある若手移住者の活動ネットワークの存在が、集落再生に係わるポテンシャルについて調査を行った。具体的には、農業やメディア業に携わりつつIターン議員として活動するT氏の情報発信、 広報活動に着目し、町内外をどうつなげているかを把握した(図4)。
その結果、移住者ならではの視点や外部ネットワークを生かした情報発信や政策提言の優位性が確認された[2]。 
[2] 議会広報、議会議事録、本人インタビュー等により分析

図4 T氏の情報発信活動

図4 T氏の情報発信活動

表4 移住者ネットワークにおける学生の係わりの可能性

テーマ ニーズ(地域) シーズ(学生)
政策提起 若者の視点 調査、情報デザインと発信
6次産業化 マーケティング 同年代の志向・嗜好把握
中高生支援 居場所づくり 運営ノウハウの収集・提供

 

4 今後の具体的な展開

以上により、学生がハブとなって関係人口のアクターを多様化、ネットワーク化するプロセスの一端を明らかにすることができた。一つ一つ、各アクターのメリットも丁寧に示しながら巻き込む手法は再現性が高いと言える。一方、こうしてつながりを得た人材が継続的に地域に係わり、住民の暮らしを維持できる体制の構築には両町とも依然課題が残る。集落を越えた連携に最終提言が行き着いたように(表2)、今後は廃校活用による地域拠点の確保等も視野に、広域の地域運営体制を追求することも求められよう。

5 その他(謝辞)

現地にて調査にご協力いただきました岩手町の皆様、西和賀町の皆様に心より感謝申し上げます。