R07北いわて地域活性化推進研究

2025年度_北いわて地域活性化推進研究_研究成果報告書_岡田先生.pdf (335.72 KB)

研究代表者

看護学部:岡田 みずほ

共同研究者

  • 看護学部:工藤 朋子、細川 舞、遠藤 良仁、後藤 未央子
  • 総合政策学部:新田 義修
  • 石巻赤十字病院:阿部 洋子

要旨

本研究では、久慈医療圏の看護職・介護職等を対象に座談会と事後アンケートを実施し、医療・介護連携の課題、必要な取組、語りたい内容、今後の企画希望を整理した。情報共有、顔の見える関係、ACP、ICT活用が主要論点として抽出され、次年度の実装研究につながる基盤が得られた。

1 研究の概要(背景・目的等)

久慈医療圏では、高齢化の進展と医療資源の偏在、県境を越えた患者搬送の増加を背景に、医療・介護・福祉の切れ目ない連携が一層重要となっている。令和6年度までの研究では、北三陸ネットをはじめとする地域医療情報連携基盤があるにもかかわらず、看護職・介護職におけるICT活用のばらつき、必要な情報の認識差、顔の見える関係性の不足が課題として示された。そこで令和7年度は、多職種が対話を通じて地域課題を共有し、今後の連携強化と医療DX推進の方向性を具体化することを目的として、座談会を中心とした実証的取組みを実施した。

2 研究の内容(方法・経過等)

久慈医療圏の病院、診療所、訪問看護ステーション、介護施設・事業所、地域包括支援センター等に勤務する看護職・介護職、ならびに関係職種を対象としてミニレクチャーと座談会を開催した。

参加者は72名で、事後アンケート回答者は35名であった。

1)ミニレクチャーの概要

 令和7年度は、1.令和6年度年度のアンケート結果報告、2.久慈消防本部の槻木澤和也氏より久慈医療圏から域外への患者搬送の現状について、3.株式会社ワイズマンマーケティング本部伊藤宏光氏よりメルタスの活用について、4.野田村 保健福祉課 地域包括支援センター大上有子氏より事例検討の内容でミニレクチャーを実施した。

2)座談会の概要

座談会では、『地域でケアをつなぐために、何から始める?何を始める?どうやって始める?』をテーマに、多職種を複数のグループに分けて実施した。

座談会では、下記の点がグループ間で共通して出された課題だった。

1.救急現場での情報不足:救急隊員が現場に駆けつけた際、患者の既往歴、内服薬、アレルギー、延命の意向(ACP)が把握できず、適切な初期対応や搬送先の選定に支障をきたす。 

2.膨大なアナログ作業の負担:1回の救急対応ごとに発生する手書き書類作成が、スタッフを疲弊させ、本来のケアに割くべき貴重なリソースを圧迫している。 

3.システムの乱立と不全:メルタス、北三陸ネット、ステラネットなど複数のシステムが存在し、施設間での活用度の差や使い分け、連携不足が問題視された。

一方、解決案としては、下記の内容があがった。

1.「コネクトエイト」の成功モデルに学ぶ:八戸市の事例であるリアルタイム情報共有プラットフォームが、事務負担の劇的な軽減とケアの質向上の両立を実現する希望として注目された。 

2.現場への「利便性」の証明:ICT導入の障壁となる現場の抵抗感を打破するためには、事務作業が「ほぼゼロになる」といった具体的かつ直接的なメリットを証明し、理解を促進することが不可欠となる。 

3.多職種間のタイムリーな共有:病院、訪問看護、リハビリ、介護施設、救急隊の間で、退院支援や日々の患者状況、薬剤情報をシームレスに共有する体制の整備が必要である。 

全グループの議論を貫く最も重要な結論として、「イノベーションの本質はアプリではなく、人の繋がりにある」という点だった。具体的には、消防、医療機関、介護関係者が同じテーブルに座り、互いの「痛み(課題)」を理解し、相互理解を深めることが連携の第一歩であり、対話による合意形成が極めて重要である点や、組織の壁や縄張り意識を超えて、「患者の途切れない道のりを支える」という共通の目的を共有することで真の地域連携DXが実現できる点、何よりも高度なシステムであっても、それを使う人々の信頼関係と「協力しよう」という意志がなければ、単なる「箱」に過ぎず、信頼こそがライフラインとなりえることが強調された。

3)事後アンケートの結果について

 座談会後に実施したアンケートには、35名の回答を得た(表1)。

所属先

人数

内訳

人数

老人介護施設

8

医療職(看護職)

介護職

管理職

相談員

3

3

1

1

行政機関

6

医療職(看護職)

医療職(看護職以外)

行政職

行政職, 栄養士

事務職 

1

1

2

1

1

診療所(19床以下)

4

医療職(看護職)

医療職(看護職以外)

医療職(看護職以外), 事務職

1

2

1

病院(20床以上)

4

医療職(看護職)

4

訪問看護ステーション

3

医療職(看護職)

3

介護保健施設

2

事務職

2

その他

8

医療職(看護職)

医療職(看護職以外)

営業

介護支援専門員

介護職

薬剤師

1

2

1

2

1

1

総計

35

 

35

座談会を知ったきっかけは、案内パンフレットを見たという回答が15名(36.6%)、次いでMeLL+の掲示板を見たという回答が12名(29.3%)だった。

 また、参加回数は、初回参加が18名(51.4%)、2回目が17名(48.6%)だった(表2)

表2 座談会への参加状況

項目

回答数

割合

1回目

18

51.4

2回目

17

48.6

総計

35

100

座談会の満足度および多職種とのコミュニケーションの深まり度合いを10点満点で得点化したところ、満足度は平均7.8点で5点以上の回答が多かったが、多職種とのコミュニケーションの深まり度合いは平均6.6点であり2~10点までばらつきが生じていた。

アンケートの自由記載を、質的に整理した。

1.地域連携における日頃の課題

日頃の課題として【情報共有・ICT活用の課題】、【コミュニケーション・話し合いの機会不足】、【相互理解・立場の違いによる認識のずれ】、【関係性構築・信頼形成の不足】、【組織・制度的支援の不足】、【人的資源・マンパワーの制約】、【意思決定・退院支援など連携プロセスの課題】、という7つのカテゴリーが抽出された。

2.課題解決に必要な取り組み

 必要な取り組みについては、【情報共有の仕組み整備・ICT活用促進】、【継続的な座談会・研修・会議の開催】、【相互理解・関係性づくりの促進】、【教育・啓発・人材育成】、【組織的・行政的支援の強化】、【リーダーシップ・牽引者の存在】、【意思決定支援(ACP)・利用者中心の連携体制】という7つのカテゴリーが抽出された。

3.他職種・他施設と語りたい内容

座談会で語りたい内容では、【ACP(アドバンス・ケア・プランニング)・意思決定支援】、【情報共有・ICT活用・地域連携の仕組み】、【現場課題・困難ケースの共有】、【業務負担・人手不足・働き方について】、【地域包括ケア体制と行政・包括支援センターとの関わり】、【医療連携・臨床的テーマ】の6つのカテゴリーが抽出された。

4.今後の座談会企画への希望

企画に関する希望では、【ACP(アドバンス・ケア・プランニング)・意思決定支援】、【情報共有・個人情報保護・ICT活用】、【他職種・多機関連携の具体的実践】、【事例共有・成功例からの学び】、【在宅医療・地域ケア体制】の5つのカテゴリ―が抽出された。また、より時間を確保した深い議論の場を望む声もあげられた。

3 研究の成果

現在の課題として、情報共有の困難、ICT活用の温度差、話し合いの機会不足、職種間の相互理解不足、組織的支援やマンパワー不足が繰り返し指摘された。解決に必要な取組としては、継続的な座談会・研修会、ICTリテラシー教育、共通の情報共有ツールの活用促進、顔の見える関係づくり、自治体や中核医療機関の関与強化が挙げられた。さらに、今後語りたい内容としてACP・意思決定支援、困難ケース、在宅医療、クリニックとの連携、ケアマネ不足や人材育成が示された。今後の企画希望では、ACPと尊厳死、個人情報保護と情報共有の両立、好事例共有、在宅医療・訪問診療との協働、多職種座談会の継続が求められた。これらの結果から、久慈医療圏の連携課題は『ICT』『対話』『制度・運用ルール』の三層で捉える必要があることが明らかとなった。座談会のテーマ

4 今後の具体的な展開

令和8年度は、本年度の成果を踏まえ、北三陸ネットとメルタスを活用した看護・介護連携DXモデルの構築と実装へ発展させる計画である。具体的には、対話型座談会の継続、ICT活用促進のための実践的研修、共有すべき情報項目と手順のプロトコル化、学会シンポジウムを通じた外部評価とモデル改良を進める。令和7年度に得られた現場の声は、次年度研究における介入設計の根拠であると同時に、久慈医療圏における地域包括ケアの質向上を目指す実装研究の出発点となる。

謝辞:座談会およびアンケートにご協力いただいた久慈医療圏の看護職・介護職・関係職種の皆様、北三陸塾、しろと内科・循環器科クリニック、村田歯科医院、リハビリタウンくじの皆様に深謝いたします。