岩手県立大学広報誌県立大 ArchVol.75

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広報誌県立大Archの掲載情報をもとに作成されています。

研究フィールド

受送信機を回転させることで切れ目のない通信環境を実現し、ロボット同士の衝突を避ける。

ソフトウェア情報学部
准教授 新井 義和あらい よしかず

埼玉県菖蒲町(現久喜市)生まれ。1993年東洋大学工学部情報工学科卒業。同大大学院工学研究科(博士前期課程)修了後、理化学研究所でロボット研究に取り組み、1998年に連携大学院である埼玉大学大学院理工学研究科(博士後期課程)を修了。同年4月、岩手県立大学に着任し現在に至る。研究活動が縁で枝打ちや間伐を体験して以来、山仕事が趣味。

ロボットの可能性を広げるシームレスな通信システム

 「機動戦士ガンダム」に憧れ、大学時代、周囲に「ガンダムをつくる」と公言していたという新井義和先生。「今も同期に『ガンダムできたか?』とからかわれます」と笑う先生は、ロボットの衝突を回避する「赤外線を使った通信システム」の研究に取り組んでいる。
 「赤外線は、テレビのリモコンなどにも使われている目に見えない光ですが、向いている方向に直進する性質があり、あらゆる方向に電波が拡散するwi-fiなどに比べ混信が起こりにくい。また、送信方向ごとに情報の切り替えができ、光の強さによって信号が届く範囲を変えられるといった利点もあります」
 この特性を生かせば、例えば工場内で働く複数の運搬ロボットが、進行方向や速度などの行動情報を赤外線通信でやり取りし衝突を回避できる、と新井先生は話す。
 しかし、ロボットが互いの動きを把握するには全ての方向が送受信可能状態でなければならず「送受信素子を放射状に並べる」従来の方法では通信の死角ができるという課題があった。そこで新井先生の研究チームは「送受信機そのものを回転させる」という独自のシステムを構築。シームレス(切れ目のない)通信を実現した。
 「速度の改善や小型・軽量化などの課題を克服できれば、実用化も夢ではない」と話す新井先生。「おそらくまだ他に例がない」というこの通信システムを応用し、研究チームのひとり・赤川徹朗さん(博士後期課程1年)は、目的に応じて合体する「自己組織化ロボット」を研究しているという。ガンダムを夢見ていた新井先生の取組は、ロボットの進化を担う大きな可能性を持っている。

宮古短期大学部
教授 川島 英城かわしま ひでき

群馬県前橋市出身。1983年筑波大学大学院農学研究科応用生物化学系博士課程修了。1990年、岩手県立宮古短期大学(現岩手県立大学宮古短期大学部)開学と同時に着任。生命と科学、生活環境概論などの教養科目を担当している。りんごが大好きで、趣味は料理。毎年りんごの季節になるとジャムやアップルパイを作るのが恒例。時には学生に振る舞うことも。


三陸の巻貝から発見した新規不飽和脂肪酸の可能性を探求

 「なにか宮古らしいものをテーマに、生物学的な研究ができないだろうか。そう考えていたとき、海岸で巻貝を見つけ、分析してみたのがきっかけでした」
 宮古短期大学部の川島英城先生は、三陸海岸に生息する巻貝「ヨメガカサガイ」から、数十種類もの新規不飽和脂肪酸を発見。その特性を見極め、機能性食品などに活用できる可能性を探求しようと、岩手大学農学部と共同で研究を進めている。
 不飽和脂肪酸は、構造中に二重結合を持つ脂肪酸で、低温でも固まりにくいといった特徴がある。魚に含まれるDHAやEPAのように健康効果が認められ、サプリメントなどの機能性食品に利用されるものも少なくない。
 「今回見つけた不飽和脂肪酸の中にも、人の健康に役立つものがあるかもしれない、と期待しているんです」と川島先生。先生がヨメガカサガイから発見したユニークな不飽和脂肪酸は、なんと30種類近く。そのうち10種類を対象に化学構造の解析と生物活性(生体に与える効果)の評価に取り組んだところ、2種類から新たな生物機能の解明につながる「想定外の活性」を見いだすことに成功した。これらの研究成果を論文にまとめ発表する準備を現在進めている。
 東日本大震災による中断を含め、ここまでに10年もの歳月を要したヨメガカサガイの研究。そのモチベーションの源は「純粋に研究が面白いから」と先生は笑う。
 「三陸の海には、未解明の物質を持つ生物がまだたくさんいる。この可能性の宝庫をフィールドにできる宮古キャンパスは、すばらしい環境だと改めて実感しています」