この問題、どう考える?

身の回りで起こっているさまざまな社会問題を、大学の先生たちにご指南いただくこのコーナー。
地域のこと、世界のことなど、皆さんも一緒に考えてみましょう!

今号のテーマ[正しさはもろい]

SNS上でしばしば話題になっている小学校算数の掛け算順序問題。「5個のリンゴがのったお皿が3枚あります。リンゴは全部で何個あるでしょう」。5×3が正解で、3×5はバツや減点になる流儀もあるようです。正しい答えはどのようなものなのでしょうか。そもそも「正しい」とは一体どういうことを指すのでしょうか。

ソフトウェア情報学部田村篤史准教授
今号の先生 ソフトウェア情報学部
田村 篤史
准教授

先生の解説

 名奉行・大岡越前の話に、子どもの親権を争う2人の母親が登場します。どちらが本物かを見定めるため、大岡は2人の母親にその子の腕を引っ張り合わせ、子どもが痛がる様子を見て先に手を離した母親を本物と認めました。「(A)本当の親なら子どもが痛がる行為を続けられるわけがない」というのが大岡の前提ですが、「(B)どんなに痛がっても決して腕を離さない親こそ本物」という考え方もあるはずです。さて、あなたなら(A)、(B)のどちらの前提を選択しますか?
 物事を判断するとき、その基準となる「前提」は人によって変わることがあります。一般的に前提が変わると結論も変わるのです。大岡裁きの例でいうと、(A)を前提としたときに母親と認定された女性は、(B)を前提とすると母親だと認められない可能性が高いです。実社会の場合、どの前提を選択するのかは、その人の価値観に委ねられることもあります。また、世論の影響を受けることもあるでしょう。つまり、「正しさ」とは絶対的なものではなく、とても脆いものなのです。この世に絶対的な「正しさ」はありません。あくまで、ある前提に立脚したとき、その体系の中で、その「正しさ」が保証されるのです。
 では、少しでも正しく判断するためには、どうすると良いのでしょう。まず大切なのは、「論理的思考」を身につけることです。数学が得意な生徒は、常に「どこでどの根拠を使っているのか」を考え、自分の答えの裏付けを取ろうとします。一方、数学が不得手な生徒は、直観に頼る傾向があり、根拠が不明確であることが少なくありません。最初は難しくても、「根拠を意識する=論理的に考える」姿勢・習慣を身につけると、正しい答えを導き出すことができるようになります。今、世の中には真偽もわからない雑多な情報があふれ、詐欺なども横行していますが、そうした情報や話をうのみにしてはいけません。それが信用に値するものなのか、しっかりと根拠を調べ、裏付けを取る。その上で、正しい判断をしてほしいと思います。

注射針

※令和6年度岩手県立大学公開講座
 滝沢キャンパス講座資料から抜粋