研究クローズアップ

地域のシンクタンクとして、本学では多様な分野でさまざまな教育・研究が行なわれています。その中から注目の研究をご紹介しましょう。

プロジェクトメンバー

プロジェクトメンバー(左から)三浦奈都子教授、三井美波助教、遠藤良仁准教授、及川紳代講師、小嶋美沙子准教授、藤澤由香講師。

看護学の各領域をつなぐ
「シミュレーションプロジェクト」

看護学部シミュレーションプロジェクトチーム

看護学部の各領域(基礎看護学、成人看護学、老年看護学、在宅看護学、看護情報学)の教員が連携して取り組むシミュレーション教育のプロジェクト。医療現場をリアルに再現した場面で繰り返し演習することで実践力を養い、効果的に臨床実習につなげることを目的としている。

総合政策学部 杉安和也講師

「シミュレーション」で学びをつなぎ現場に強い実践スキルを身につける

 看護職を目指す学生が、安心かつ効果的に学ぶことができる手法として注目される「シミュレーション教育」。シミュレーター(人形)やVR教材を使い、実際の医療現場を想定した環境でトレーニングを行うもので、失敗を恐れず繰り返し学べ、着実に実践力を身につけることができます。
 看護学部では、三浦奈都子教授を中心に10年前からシミュレーション教育を導入。基礎看護学、成人看護学など各領域の授業で取り入れています。その「点と点」をつなぎ、より複合的な学びの場をつくろう、と立ち上げたのがこのプロジェクト。三浦教授はじめ6名の教員を中心に、シミュレーション教育のさらなる可能性を模索しています。
 「看護学では、まず知識、次に技術を習得し、それらを統合して実践・応用していくのが学びの基本。しかし、社会の変化やコロナ禍の影響により病院・施設での実習で経験できることに制限が設けられる場合があります。それを補うためにも、個々で行っているシミュレーション教育を他の科目と連携させ、臨床に近い環境で、繰り返し学ぶ機会をつくれたら」と三浦教授。例えば、基礎看護技術のひとつ「脈や呼吸音の測定」で、「高齢の患者に拒否される」場面を設定。高機能シミュレーターによる現場さながらのシチュエーションで、老年看護学など他領域で学んだ知識も駆使しながら、適切な対応を考え、実践し、繰り返し検証することができます。
 「各領域での実践を共有し、学生と教員がともに学び成長できるプロセスが、このプロジェクトのよいところ。1年生向けのプログラムに4年生が指導役で参加するなど、学年を超えた学びの場にもなっていることを実感しています」と三浦教授。現在は実習室で活動していますが、いずれは「シミュレーションセンター」の常設を計画しているそう。「学生がいつでも利用できる、主体的な学び合いの場にしていきたい」と、今後の抱負を語ってくれました。

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社会福祉学部 人間福祉学科紀司 かおり講師

岩手暮らし3年目。「岩手はごはんが美味しいですね。特に魚介類」と紀司講師。パンが好きで、休みの日にはよくパン屋めぐりをしているそう。

犯罪を繰り返してしまう人の再犯防止や
社会復帰についての研究

社会福祉学部 人間福祉学科紀司 かおり講師

奈良県出身。地元の高校を卒業後、心理学を学ぶためアメリカに留学。ケンタッキー州立大学を経て、カリフォルニア州立大学フレズノ校社会科学大学院修了(修士)。帰国後心理職として働いたのち、筑波大学大学院を修了(博士)。2022年岩手県立大学に着任。

紀司講師のもとで犯罪心理を学ぶ研究室の学生たち

紀司講師のもとで犯罪心理を学ぶ研究室の学生たち。

研究成果を英文でまとめた著書

研究成果を英文でまとめた著書。

犯罪心理を「当事者視点」で紐解き再犯防止と社会復帰につなげる

 元々、人の心理を描く映画や小説が好きだったという紀司かおり講師。高校時代、アメリカのFBI捜査官の手記を読んだことをきっかけに「犯罪心理学」に興味を持ちます。「学ぶなら本場で」と、高校を卒業後アメリカへ留学。ケンタッキーの大学で心理学を学んだ後、カリフォルニアにある大学院で犯罪学を専攻し、帰国後は心理職として働いていました。
 7〜8年経った頃、「現場で得た経験則を論理的に紐解きたい」という想いから再び大学院に入り、博士号を取得。その後心理職として現場に戻りましたが、心理学分野で働く人への専門教育の必要性を実感し、大学教員に。現在は、岩手県立大学社会福祉学部の講師として心理学関連の授業を担当しながら、犯罪を繰り返してしまう人の再犯防止や社会復帰についての研究にも取り組んでいます。
 「福祉の領域における犯罪心理の研究は、どうしても『支援する側』の視点で行われがちですが、私は『当事者』の視点に興味を持っています」と紀司講師。最近では、刑務所を出所しても万引きを繰り返す人たちを対象にインタビュー調査を実施。「犯罪行為に至る経緯を当事者の語りから紐解いていくと、過去のトラウマや依存といった背景が見えてくる」と言い、それを見つめ直すことで犯罪行為の原因やきっかけを内省し、再犯防止や支援につなげるプログラムも実践しています。
 紀司講師の授業のひとつ「司法・犯罪心理学」は、社会福祉学部で取得可能な「公認心理師受験資格」の必須科目。「公認心理師を目指す学生の多くは子どもなどを対象とした支援に関心があり、犯罪者と聞くと、怖い、自分とは関わりがないと感じるかもしれません。でも、罪を犯す・犯さないは、実は紙一重。自分が支援に関わった子どもが将来、罪を犯してしまうこともあり得る。そういう自分ごと視点で犯罪心理を学んでもらえたら」と話します。

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