この問題、どう考える?

身の回りで起こっているさまざまな社会問題を、大学の先生たちにご指南いただくこのコーナー。
地域のこと、世界のことなど、皆さんも一緒に考えてみましょう!

今号のテーマ[注射最前線]

腕に注射されるとき、どんな体勢をとっていますか?昔は「手を腰にあてる」ように言われたものですが、今の筋肉内注射は違うようです(ただし、皮下注射で肘近くに注射される場合は昔と同じままだそう)。あなたが信じている常識も、すでに過去のものかもしれません。

今号の先生 看護学部
高橋 有里
教授

先生の解説

 2020年、COVID-19が世界的に大流行し、その対策としてコロナワクチンの接種が急速に進められました。これは「筋肉内注射」のみ適応のワクチンのため、必ず筋肉内に注射しなければ薬効が保証されません。しかし、日本の医療現場では筋肉内注射の機会が減っていたために、臨床の看護師も経験の浅い人が多く、注射する人員の確保と共に「注射手技」の徹底が課題になりました。
  私は20年ほど前から「筋肉内注射方法」について研究していたことから、問い合わせが増加。個人の技量によるばらつきを減らすには「筋肉内注射専用の針の製造が必要」という私たちの提言が注目され、あるメーカーは新たな針の製造に着手しました。その一方で、これまで看護教育で教えられてきた注射部位とは異なる部位も厚生労働省から紹介され、今までとは異なる新たな部位での注射する深さの検証が必要になり、研究を進めている最中です。
 看護の世界では、常に新たな研究が進んでおり、今まで常識とされていたことが常識でなくなることがあります。注射を受ける際には、手を腰にあてる体勢が一般的であったと思いますが、新たなエビデンスにより筋肉内注射の場合には「手を下垂する方が良い」(腰にあてると神経損傷という合併症のリスクが高くなる)ことが明らかになっています。注射を受ける際は、過去の体験に縛られず、看護師の指示に従いましょう。不安に思うことは聞き、十分理解したうえで看護を受けていただきたいと思います。

注射針

注射には、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、静脈注射などの種類があり、針を刺して2mm程度で留めれば皮内注射になるが、もう少し深く刺すと皮下注射、さらに奥まで針を進めれば筋肉内注射になる。