研究クローズアップ

地域のシンクタンクとして、本学では多様な分野でさまざまな教育・研究が行なわれています。その中から注目の研究をご紹介しましょう。

東日本大震災以降の日本全国における
津波避難対策に関する研究

総合政策学部杉安 和也講師

大分県出身。2007年に筑波大学第三学群社会工学類都市計画主専攻を卒業後、同大学大学院に進み、2012年システム情報工学研究科リスク工学専攻博士後期課程修了。同大学院非常勤研究員を経て、2013年東北大学災害科学国際研究所助教。2021年より現職。

ゼミではハザードマップづくりも指導。「ゼミの配属は3年生から。じっくりと研究を深められるよう、いろんなフィールドに連れていきたい」と話します。

自治体との連携で実施した避難訓練の様子。「地域に研究を深化させることができるのも、この大学の魅力」と杉安先生。

「生きた防災」のあり方を地域と一緒に考えたい

 高校時代は建築家に憧れていたという杉安和也先生。建築を学びたいと進学した筑波大学で、都市計画と防災という研究分野に出会います。大学2年生のときに、インド洋大津波(スマトラ沖地震)が発生。その復興状況を調査するチームに加わったことをきっかけに、防災研究の道を歩み始めました。
 「私にとって研究は、いろいろな事例を集めて比較すること」と、杉安先生。大学時代は全国の自治体の津波ハザードマップを集め、盛り込まれた情報の違いを調査。大学院修士課程ではインド洋大津波で被災した3カ国の復興プロセス、博士課程ではインドネシア国内の地域別復興状況と、範囲や視点を変えさまざまな「比較」を行いました。東北大学災害科学国際研究所の助教時代には、東日本大震災の被災・復興調査を実施。自治体が行う避難訓練の企画運営支援にも関わりました。
 2021年に岩手県立大学に赴任した杉安先生は、地域防災論や自然災害論を担当するほか、防災復興支援センターの副センター長、学生ボランティアセンターのアドバイザーも兼任。「防災には終わりがありません。どのような災害がどの時間帯に、どんな場所で起きるかで取るべき行動や必要なものも変わる。条件をさまざま変えて検証をすることが大切」と、自治体と連携し、慣例的になりがちな日中の避難訓練を夜間に行うなど「生きた防災」を実践。「こうした避難訓練の事例をデータベース化し、他の自治体も参考にできるようにしたい」と話します。
 「今の学生は東日本大震災を経験していることもあり、防災への意識や関心が高い。私も彼らからいろいろな気づきをもらっています」と、杉安先生。その一方で、震災後に生まれた中学生から下の世代に、震災の教訓と防災意識をどう継承していくかが重要、と考えているとのこと。「そのためにも、岩手の子どもが楽しく学べる防災教育ツールの開発に取り組む予定です。学生たちの力も借りながら形にしていきたい」と、今後の抱負を語ってくれました。

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紅茶やコーヒーが好きで、研究室にはコーヒー豆や茶葉を数種類常備。「朝はアールグレイティーを飲むのが日課」と笑顔を見せる和川先生。

公共政策とウェルビーイングの
定量的な関係分析

宮古短期大学部・経営情報学科和川 央准教授

岩手県出身。東北大学経済学部卒業後、岩手県庁に入庁。県の大学院派遣制度を利用し岩手県立大学総合政策研究科博士前期課程を修了。その後社会人入学で博士後期課程を修了し、2020年から特任准教授として岩手県立大学着任。2023年3月に県庁を退職、同年4月から現職。

研究の成果をまとめた資料。

学会で発表する和川先生。

ウェルビーイングを幸福な社会づくりに活かしたい

 「ウェルビーイング」とは、肉体的、精神的、社会的に満たされた「良い状態」を指す概念で、幸福感とも言い換えられます。和川央先生は、このウェルビーイングを政策等に活かせるよう、定量的に分析(数値化)する研究に取り組んでいます。
 「日本国憲法第13条にあるとおり、私たちには幸福を追求する権利があります。けれど幸福感は個人の主観なので、そのまま公共の政策に取り入れることは難しい。それを客観的な指標として活用できるよう分析するのが研究のテーマです」と話す、和川先生。もともとは岩手県職員で、県の「大学院派遣制度」に応募し、岩手県立大学総合政策研究科に入学。博士前期課程を修了し県庁に戻った数年後、今度は社会人入学で博士後期課程に進み、研究を続けます。そのようななか出会ったのが、主観を分析するという、経済学の手法でした。
 「これまでの経済学では、経済成長を示すGDP(国内総生産)を、人間の幸福を測る代理指標にしていました。しかし近年、GDPと幸福感は必ずしも関連しないことがわかり、心の動きなど主観的な要素を取り入れた行動経済学が注目されるようになりました。その手法を政策分野にも活かすことができるのでは? と考えたのが、この研究に取り組むきっかけです」。
 アンケートで主観的幸福感や生活満足度を計測、分析し、幸福を構成する要素を抽出。この手法を使い、「幸福度」を指標にした岩手県総合計画の策定にも関わった和川先生。今後は「東日本大震災の被災地における、ウェルビーイングの変化を分析したい」と考えています。
 「被災地で優先すべきこと、必要とされるものは時間とともに変化する。その過程の分析は、今まさに復旧・復興の最中にある他の被災地でも役立つ、と思っています」。
 宮古短期大学部では経営統計学や地域政策論の授業を担当。「情報が溢れる時代だからこそ、自分の頭で考え、読み解く力を身につけてほしい」と、先生は話します。

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