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高等教育推進センター大谷 実講師
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シンティ・ロマの包摂と排除をめぐる歴史研究:
ナチスと戦後西ドイツ社会
Profile
東京都出身、上智大学文学部卒。東京外国語大学地域文化研究科修士課程を修了後、会社員を経て、同志社大学経済学研究科博士課程を修了。2021年に岩手県立大学高等教育推進センター講師に就任。休日は森林散策や温泉めぐりで岩手暮らしを満喫している。
授業の様子
大谷先生が研究するシンティ・ロマの迫害の歴史についての書籍と研究論文。
「シンティ・ロマ」とは、かつて、ヨーロッパにやってきたシンティ族、ロマ族の総称。国を持たない彼らは、「ジプシー」などの呼称で差別を受け、ナチス・ドイツ時代には、ユダヤ人とともにホロコースト(大量殺戮)の犠牲になりました。
「ユダヤ人がナチスから迫害を受けていたことはよく知られていますが、シンティ・ロマも迫害されたことを知る人は少ない。ならば自分が光を当てようと思ったことが、研究に取り組むきっかけでした」。
そう話す大谷実先生は、大学で西洋史を専攻。ナチスについて調べる中でシンティ・ロマに興味を持ち、以来、その迫害の歴史を研究し続けています。「ドイツでもマイナーな研究で、まだ解明されていないことも多い。だからこそオリジナルの研究ができる楽しさがあり、自分が取り組む意義を感じます」。
修士課程を終了後、ドイツと取引のある企業に就職。しかし「もっと研究を深めたい」という気持ちが募り、再び研究の道へ。「少し遠回りだったかもしれませんが、大学の外に出て、いわゆる〝一般的な社会人”として働いたことは、社会とマイノリティのかかわりを研究する自分にとって、貴重な体験でした」と振り返ります。
公文書などの資料から当時の国の政策や社会背景を検証し「マイノリティがどう扱われてきたか」を紐解いていくのが研究の柱。「歴史は変えようのない過去の出来事と思われがちですが、〝いま”の状況や価値観によって、歴史の捉え方も、得られるものも変わっていきます」と、大谷先生。歴史研究は、過去を学ぶのではなく、「過去に学ぶ」もの。かつてのドイツ社会のありようは、いまのヨーロッパ情勢とも重なる部分が多く「悲劇を繰り返さないために、歴史から得た学びを未来にどう生かすかが大切」と話します。
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社会福祉学部本間 萌講師
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高齢期のボランティア活動、回想法・ライフレヴュー
Profile
北海道出身。岩手県立大学社会福祉学部、岩手県立大学大学院社会福祉学研究科前期課程修了。神奈川県でソーシャルワーカーとして働いた後、日本福祉大学にて社会福祉士養成に携わる。2021年岩手県立大学に着任。コーヒー好きで、喫茶店をめぐるのが休日の楽しみ。
本間先生が携わっている回想法の書籍と研究論文。
回想法で使用する道具 さいかちの実と木槌
人生の思い出を語り合い、共感し合うことを通じて、自分という存在を肯定し、他者との交流を促す「回想法」。1960年代にアメリカの精神科医ロバート・バトラーの提唱にはじまる心理療法で、日本では高齢者等を対象に、認知症や社会的孤立を予防する一つの手法としても活用されています。
本間先生が回想法と出合ったのは、本学の学生のとき。所属ゼミの野村豊子教授(当時)が日本における回想法の第一人者で、そのフィールドワークに同行したのがきっかけでした。
「宮古市で回想法を実践しているボランティアの活動にお邪魔したのですが、高齢の参加者の方々が、初対面にもかかわらず昔の話を通してすぐに打ち解け、笑顔で帰って行ったのが印象的で。当時、学生でまだ若かった私にはピンと来なかったものの、『昔を思い出す』ってどういうことなんだろう、と興味を持ちました」。
認知症予防として注目されがちな回想法ですが「それよりも私は、語りを通して人と関わる心地よさや安心感など、社会的な面での意義を考えたい」と本間先生。特に着目しているのが、ボランティアによる実践。日本では各地でボランティアによる回想法の取り組みが展開されています。
「学生時代から関わっている宮古のグループは、聴き手であるボランティアも同じ地域で暮らすシニア世代。言葉や文化など共有している部分が多いので、話し手の満足度も高くなる。土地に伝わる風習や歴史など聴き手が得るものも多く、支援する・されるという関係を超えたつながりが生まれます」。
誰かの人生や思い出に触れることは、自分の人生も豊かになること。これは回想法に限らず「私たちは、他者との関わりを通じて多くのものを受け取っている」と本間先生。ソーシャルワークを学ぶ学生たちにも「いろいろな人と出会い、たくさんの学びを得てほしい」と呼びかけます。