vol.78

岩手県立大学広報誌WEB版

このページは岩手県立大学広報誌「県立大Arch!」のWeb版です。
広報誌「県立大Arch!」の掲載情報をもとに作成されています。

「県立大ブランド」って何だろう?

 2019年5月に開所10周年を迎えた滝沢市IPUイノベーションセンターは、産学連携の促進や地域産業の振興などを目的に岩手県立大学滝沢キャンパスの向かいに建てられました。2014年開所の同第2イノベーションセンター、IT産業の集積を目的に整備された企業分譲地イノベーションパークと共に、岩手県内外からIT関連企業が数多く入居しています。

[写真について] 滝沢市IPU第2イノベーションセンターのエントランスにて撮影/左から株式会社ゴーイング・ドットコムの花田健自さん、株式会社テムテック研究所いわてオープンラボの成田英樹さん、パンテック店長の羽上紗由さん、日本精機株式会社の千葉翔太さん、滝沢市地域おこし協力隊の佐藤貴之さん、岩手県立大学研究・地域連携本部の柴田義孝特任教授、岩手インフォメーション・テクノロジー株式会社の外川綾香さん

 滝沢市IPUイノベーションセンターの創設の原点は、岩手県立大学の西澤潤一初代学長が開学前の平成7年頃から提唱していた「門前町構想」に遡ります。「大学を作るだけではなく、大学を中心とした町づくりを進めて産業集積をめざす」と語った西澤学長の思いは、大学基本構想の策定メンバーとして共に開学黎明期から大学を支え続けた柴田義孝名誉教授に受け継がれてきました。「大学を作るために最初に現地を訪れたとき、ここはただの牧草地でした。そこに道ができ、大学ができて、地域連携研究センターや2つのイノベーションセンターができ、今では学生たちや企業人たちが往来しています」と語る柴田名誉教授。

 柴田名誉教授は、IPUイノベーションセンター開所に向けた入居企業の誘致にも尽力しました。建物を造っても企業が入らなければ意味がないとの一心で、猛暑のなか東京に赴き企業を1社ずつ訪ねたこともあったといいます。その結果、平成21年の開所時には5社が入居。開所から2年後の東日本大震災の際には入居数が一時的に減りましたが、滝沢市の働きや新しい企業との縁もあって入居増に転じました。平成26年には第2イノベーションセンターがオープン、イノベーションパークへの立地も進み、現在26の企業が入居または立地しています。

 「イノベーションセンターの企業は、それぞれに夢と熱意を持っています」という柴田名誉教授。「イノベーションセンターには良い企業が多く集積しています。大学が近くにある、研究連携もできるという以上に連携を深めたい。PBL企業アドバイザ制度(※)を導入するなど企業に大学の教育に関わってもらう取組も行っています。今後も滝沢市はもちろん岩手県とも連携している自動車産業、半導体、組み込みソフト・技術などものづくり産業の集積を進め、東北のシリコンバレーと呼ばれる地域として発展していきたい」と語りました。

「PBL(Project Based Learning)企業アドバイザ制度」…岩手県立大学ソフトウェア情報学部の学生が自主的に企画した研究開発プロジェクトである「PBL」において、IPUイノベーションセンター入居企業の方々が企業アドバイザを務める取組。

ソフトウェア人材を確保
研究所を拡大していく

 令和2年2月、イノベーションパークに岩手研究所を新築した株式会社ゴーイング・ドットコム(本社 東京都台東区)。ビル清掃業など外勤業務や、近年では災害後の調査業務(地震保険査定・住家被害認定調査)へも応用するなど、スマホで簡潔な報告書作成、調査業務を可能にしたアプリ「スマートアタック」の開発、モバイルを中心にしたアプリや企業向けのシステム開発などを手がける企業です。県立大学の卒業生である花田健自主任は「岩手研究所のミッションは3つ。県立大学との共同研究、東京のお客様向け受託開発業務、そして人財の確保です」と説明します。全国的にソフトウェア人材が不足していると語る花田さん。県立大学のソフトウェア情報学部は規模が大きく、真面目で優秀な学生が多く集まるといいます。「岩手で採用活動に力を入れ、将来は滝沢で数十名の開発もできるような事業規模への成長を目指します。インターンシップも受け入れます、気軽にどうぞ」と話してくれました。

新しいことにチャレンジ
できる連携の場

 新潟県長岡市に本社を置く日本精機株式会社。ドライバーに安心安全を提供するという理念のもと自動車やバイクのメーターを開発・製造しています。ヘッドアップディスプレイ(※1)の世界シェアでナンバーワンを誇ります。設計を担当する千葉翔太さんは岩手県立大学の卒業生です。「車載機メーカー希望で就職活動をしていたのと同時期に、現在センターにある当社岩手分室で勤務している社員が開催する学生向けの勉強会に参加したことが会社を知るきっかけでした。学生時代のイノベーションセンターの印象は『何か新しいことにチャレンジする場所』。当時よりもさらに企業との距離が近く、連携が広がっているように思います」と話してくれました。

※1 車の運転に必要な情報を、自動車のフロントウインドウに表示する技術のこと

保育分野とITとの
研究連携が進んでいます

 岩手インフォメーション・テクノロジー株式会社は岩手県立大学社会福祉学部の井上孝之准教授と連携し、保育施設向けのICT業務支援システム「おが〜るシステム」や、自治体と保育施設との業務をクラウドで結ぶ「おが〜るウェブレポ」開発しています。ICT化が遅れている保育現場の事務作業を軽減し、子どもとの関わりに専念できるよう現場をサポートするという理念から生まれた同社のシステムは全国約600もの施設で導入されています。伊藤悟グループ長は「保育の専門家である井上先生からのアドバイスや滝沢市内の保育施設へのシステムの導入など、イノベーションセンターの産学官連携メリットを生かしています。今後も『地域未来牽引企業』(※2)としてシェアの拡大や新システムの開発などを進めていきたい」と話してくれました。

※2 同社は平成30年に経済産業省の「地域未来牽引企業」に選定。

岩手発のイノベーションを
加速するオープンラボ開設

 株式会社テムテック研究所と岩手県立大学との出会いは「本当に偶然です」と語る成田英樹室長。「岩手と首都圏の企業マッチングイベントに参加するため、社長と共に初めて岩手を訪れたとき。イベント後に縁があって案内されたイノベーションセンターの一室から見えたのは、目の覚めるような青空と真っ白な雪の岩手山。それを見た社長が一瞬で入居を決めました」と笑います。それから4年。半導体製造に欠かせない「圧力センサー」と「EtherCAT ゲートウェイ」開発時の県立大学地域連携研究センターとの共同研究や、PBLのアドバイザなど連携を深めています。「令和2年3月、パーク内にオープンラボを開業しました。私たちの技術と、岩手県立大学や岩手県、滝沢市の人や研究、学生の力などが結集するオープンラボにしていきたい。米国シリコンバレー、中国深圳のオープンラボに併設していたカフェを参考に、ざっくばらんにコーヒーを飲みながら自由にアイディアを語り合える空間が欲しいと、研究・地域連携本部の柴田先生とも意見が一致しました。私たちが『門前町構想』の起爆剤になろうという思いで、さいたま市に次いで2店舗目のカフェとなるパンテックの出店も決めました」と語る成田室長。

 オープンラボは医療機器や自動車、半導体など、さまざまな企業が得意分野を持ち寄り、「オールいわて」でテクノロジーを世界に発信する拠点になることが期待されています。

 開所10周年を迎え当初の目標を上回る企業の入居により、IT関連産業の集積が進むイノベーションセンター。これからも入居企業と連携し時代や環境の変化に対応しながら、さらなる集積や利活用が図られるよう、岩手県立大学もさまざまな取組を進めていきます。

研究・地域連携本部の柴田特任教授の話です。「ノースカロライナ州の学術都市リサーチ・トライアングル・パークを訪れたとき、岩手県立大学のIT産業集積の参考になると思いました。ノースカロライナの主産業は綿花を主とする農業でしたが、地元の3つの大学が連携しIT産業の一大拠点に成長、全米トップ10に入るまでに経済発展を遂げています。大学の周りにはレストランやショッピングモールが作られ、人が集まる町づくりが進んでいました。県立大学の周囲には土地があります。盛岡大学や多くの試験研究機関とも近い。国道4号まで連なる門前町をめざすべく、これからも夢と情熱を持ってイノベーションセンターの発展に力を注ぎます」。

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