2020年4月から岩手県立大学の基盤教育カリキュラムが新しくなります。
それに伴い各学部の専門分野と併せて学べる「地域創造教育」と「国際教養教育」、
2つの副専攻プログラムの履修が可能になりました。
新カリキュラムに込めた思いについて、高等教育推進センターの工藤真由美高等教育企画部副部長(看護学部准教授)、
劉文静教授、渡部芳栄准教授にお話を伺いました。
学びの体系を重視した
新・基盤教育カリキュラム
工藤真由美副部長:今回のカリキュラム改定にあたって、科目そのものは大きく変わりません。学生が自身の学びを意識できるよう、学びの体系づくりを重要視しました。学びの体系は大きく3つの基盤で構成されます。ひとつは広く社会に対しての関心を高めるための「生きる世界を知る」。もうひとつは、社会の課題を解決するための「学問を知る・使う」。そして、基礎的な考える力を築き専門の学問を積み重ねるための「大学で学ぶ力をつくる」です。専門を発展させるために、基礎教養を身につけて欲しいです。
劉文静教授:「地域」の副専攻で学ぶのは地域を見つめる目や、地域で生きる力、実践力です。つまりグローバルに考えローカルに行動する力を養います。今回新たに「国際」の副専攻が加わりました。「地域」の副専攻とは逆に、地域の外つまり世界を見る目を育てる副専攻です。グローバルに行動するためにローカルに思考する力を養います。
これまでも大学が大切にしてきた、思考力や探求力などの知性、人間力や心、学問的な専門性に加えて、もうひとつ大事にしたいのが共感力です。世界的に広がり始めているコロナウイルスの例もそうですが、これからは国を超えて共に戦わないと人類が乗り越えられない課題がますます増えるでしょう。共感力をもって物事を捉え、冷静に思考しデマに流されない力が必要です。仕事でも多国籍な職場が増えていて、グローバルな社会で活躍できる国際総合力が求められます。そこでは教養や素養としての言語力や多文化理解力、つまりコミュニケーションスキルが重要になってきます。加えて、リーダーシップを発揮し協働を促すファシリテーションスキルも期待されます。大学で国際教養を身につけた人たちが、社会で活躍する力を育てられるようなカリキュラムをめざしました。
渡部芳栄准教授:カリキュラムの基になるポリシー(基盤教育の理念)作りに携わり、改めて「岩手県立大学って何だろう?」と掘り下げることに多くの時間を使いました。これまで県立大学として当然のように地域を重要視してきました。しかし実は20年前の開学当初からの「建学の理念」および「大学の基本的方向」では、「地域社会への貢献」と「国際社会への貢献」とは同等に重要視されていました。
最近の傾向として「岩手が大好き、岩手から離れたくない」という学生が多いです。このこと自体に問題はありませんが、岩手志向の学生が岩手志向の教育を受けているだけで良いのか、もっと外に目を向けなくても良いのかという疑問もありました。今回のカリキュラム改定では「建学の理念」を再確認し、「地域教養」と「国際教養」という2本柱をはっきりと打ち出せたことは、とても良かったと思います。これからの学生には国際的な視野を持って自分を相対的に見つめ、「岩手県立大学で学んだ」ということに自負を持って進んで欲しいと思います。
グローバルでローカル
地域社会と国際社会の教養人
渡部芳栄准教授:昨年「いわて創造教育プログラム」を修了した学生4名が、初の「いわて創造士」に認定されました。地域について学ぶほどに多くの地域課題が見つかります。今年からは知識に加え、さらなる実践力の向上をめざしたカリキュラムとして、フィールドワークが副専攻の必修になります。実際の地域を見聞きして判断すること、自分で地域の人に協力を求めながら一緒に課題を解決する力を育てます。
劉文静教授:「国際教養」では異文化理解のカリキュラムを用意しています。第二外国語は6カ国から選べますが、授業の中で卒業までに高いレベルの言語力を身につけるのは難しいです。しかし言語とはひとつの教養で、カタコトでも通じ合えば相手に好感を持てるもの。文化や食の理解も含め、多彩に外国語学習の楽しさを味わえるように工夫していきます。また実際にグローバルに活躍している人、たとえば企業人や芸術家などによる講義も予定しています。学部の専門分野以外に「自分発見」のきっかけになれば良いですね。専門の学問と副専攻とを結びつけて、グローバル社会で活躍できる豊かな人間性を身につけて欲しいです。
工藤真由美副部長:難民問題が世界では大きな課題となっています。日本では受け入れに規制があるため目立たない問題ですが、今後10数年先、学生が社会で活躍している頃には身近な問題になるでしょう。地域に外国人が入ってくるというまさにグローバルでローカルな問題です。そのときに自分ごととして捉えられるか、共感力が大事になってきますね。
劉文静教授:いま県南の平泉町と一関市、奥州市にまたがる「束稲山麓地域」で、世界農業遺産認定をめざした取り組みが進められています。それに関連した調査が本学の地域政策研究センターで「地域協働研究」に採択されています。地域をみつめる目と海外にアピールする力が求められる、まさにグローバルでローカル、岩手を知り世界とつながる事例ではないかなと感じています。