デジタル技術の進展により、社会生活でのデータの重要性が飛躍的に高まる中、教育現場でも大きな変革が起きています。未来を担う若者たちにとって、デジタル技術の使い方を身につけ、よりよい社会の実現のためにデータを活用する基礎知識を学ぶことはとても重要なことです。そのため、岩手県立大学では2022年度から全学部の新入生を対象とした新たな教育プログラムと、ソフトウェア情報学部の新入生を対象とした新たな教職課程をそれぞれスタートしました。
みなさんは実にさまざまな種類のデータに囲まれて暮らしています。たとえば、みなさんのスマートフォンやパソコン、検索サイトやショッピングサイトのサーバー、ブログやチャットのサーバー、さらには気象情報・交通情報・消費者情報・製造情報・農産物生産情報などが収集されているクラウドサービスの中には膨大なデータが記録されています。これらのデータの中から価値ある情報を見つけ出し、それらをもとに判断や行動することができれば、少子高齢化・過疎化などの課題解決、持続可能社会の実現に役立つことにつながります。
こうした社会的なニーズを背景に、今年度から本学では、全学部(看護学部、社会福祉学部、ソフトウェア情報学部、総合政策学部、盛岡短期大学部、宮古短期大学部)の新入生を対象とした「文理融合データサイエンス教育プログラム」をスタートしました。データを数理的に分析する力、データを活用したAI(人工知能)によって課題解決する力は、学部・学科の区別なく、すべての学生が身につけておく素養です。そのため、「個人所有のノートパソコン」を使って、大学での学びや研究に欠かせないパソコンの操作スキルをはじめ、データを取り扱う際の留意事項、データを収集・分析・管理するための知識・技術を体系的に修得するための教育プログラムを開設しました。このプログラムは、全県大生が必修として学ぶ「リテラシーレベル」と、希望者(四年制学部生、短期大学部からの編入生)が発展的な内容を選択として学ぶ「応用基礎レベル」からなります。
盛岡短期大学部でリテラシーレベルの科目を担当する槫松理樹(くれまつまさき)准教授(ソフトウェア情報学部所属)は、この教育プログラムの狙いを「これからの社会を生きていく上で、データを正しく理解・分析し、扱う力を身につけることは、絶対に必要な基礎力です。深く考えずにデータを信じてしまう人もいますが、それが本当に正しいことなのか、冷静にデータを検証し、自分なりに考える力を身につけてほしいと思います」と述べています。
本学が新たにスタートした「文理融合データサイエンス教育プログラム」を修得した学生たちは、卒業後、どのような仕事に就いたとしても、数理・データサイエンス・AIの知識や技術を課題解決に役立てられる人材として活躍が期待されます。
日本が目指す未来の姿として、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会が提唱されています。これは、AIやloTなどのデジタル技術の導入によって、人が「必要な情報を必要な形で」活用できる、デジタル社会を目指す取り組みです。
この一環として、2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化され、今年度からは高校において必修科目「情報Ⅰ」がスタートしました。2025年度入試には「情報Ⅰ」が大学入学共通テストの科目として登場するなど、小・中・高校を通じて情報教育の整備が進められています。また、これと並行して、『インダストリー4.0(第4次産業革命)』に向けて、数学的・論理的な思考力こそがイノベーションを起こす原動力であるという数理資本主義(数学が国富の源泉となる経済システム)が提唱され、これまで以上に「数学」と「情報」教育の重要性が増しています。
こうした社会的な動きを踏まえ、教育現場で高まっているのが「情報」教育を担当できる教員に対するニーズです。また、数学と情報を連携させ、ICTを活用して「数学」教育を担当できる教員に対するニーズも高まっており、情報と数学の両方を学修することが望まれます。現在の教育現場では、「情報」以外に「数学」や別の科目も教えられる「複数免許取得者」が求められており、大学にもこうした要望が寄せられていましたが、ソフトウェア情報学部で取得できるのは「情報」の教員免許状だけでした。
from Student
「数学」と「情報」の免許状を取得し、教員採用試験のアドバンテージに。
滝川 すみれ さん[ソフトウェア情報学部・1年]
私の将来の夢は、数学の教師になることです。でも、進路の可能性を少しでも広げておきたいと考え、数学の免許状も取得でき、企業就職の道も選択できる岩手県立大学に進学しました。入学後に「情報」の免許状も取得できると知り、「数学」と「情報」の両方の教職課程を履修することを決意。故郷の宮城県でも「情報」の教員に対するニーズが高まっていると聞き、両方取得していれば教員採用試験の際にも有利だと考えたからです。専門科目に教職課程の授業が加わることで、かなり大変になるとは思いますが、取得できる免許状には全部挑戦してクリアすることが目標。これから始まる教職課程の授業が楽しみです。
👉「数学」と「情報」が学べる新カリキュラムの整備のページ(ソフトウエア情報学部のページヘ) 近年の社会的な動きや教育現場のニーズを受け、ソフトウェア情報学部では、情報教育や数学教育の見直しを行い、学部全体を対象とした新たなカリキュラムを編成しました。2022年度から、県内で唯一、「数学」(中学校・高等学校教諭)と「情報」(高等学校教諭)の一種免許状が同時に取得できる教職課程を開始しました。
新カリキュラムでは、学びの核となるコース演習、ゼミナール、卒業研究といった科目を中心に、情報系科目と数学系科目を関連づけながらスパイラルに学ぶことができる構成に改編されています。情報の教科に関する科目については本学部の専任教員が担当し、数学の教科に関する科目については本学部内の数理系の専任教員に加え、数学の博士号を持つ非常勤教員も招き、より高度な教育を行っていきます。このような新カリキュラムと教育体制によって育成するのは、デジタル社会を担う子どもたちを指導できる教員です。深い数学的素養を身につけつつ、デジタル技術を活用した教材なども作ることができる新時代の教員を輩出していきます。
また、教職課程で学ぶ学生たちのために、2021年度から全学的な組織である「教職教育センター」が設置され、今年度からは学部内に「教職課程委員会」が発足しました。互いに連携を取りながら、教職関連の情報提供や教員採用試験に向けたサポートなど、優れた教員を養成できる環境づくりも進めています。
この春、新入生161名に対して調査を行ったところ、約4分の1の学生が教育課程の履修を希望していました。全体的には「数学」と「情報」の両方の教員免許の取得を希望する学生が多い傾向にあります。
岩手県の教員採用試験では、高等学校教諭の受験者のうち、「情報」の免許状を持つ者に対する加点措置があるため(令和4年度現在)、情報系科目を専門とするソフトウェア情報学部での学びが役立ちます。また、「数学」と「情報」の免許状を取得していると、両方の科目を教えることができる貴重な教員として、県内の教育現場での活躍が期待されます。
「卒業生たちが県内各地の高校で教えるようになると、高大連携がさらに広がり、高校の段階から多様な情報教育やプロジェクトを行ったり、卒業生の教えている姿を見た生徒たちが本学部を志望するなど、人材育成の循環が生まれていきます。優れた教員を育て、各地域に還元することは、岩手に対する大きな社会貢献につながります」。このように教職課程を担当する児玉英一郎准教授は話しており、教員を目指す学生たちの夢をサポートしながら、岩手全体の数学と情報教育の充実を目指しています。